紫木蓮の狂い咲き
2010年 07月 08日
紫木蓮が、花を付け始めた。春に咲く時のような、生き生きとした存在感のある花ではなく、生気のない花を物憂げに梅雨空に向って開いている。「狂い咲き」である。
春に咲くはずの桜・桃・躑躅(つつじ)などの花が、季節外れに咲くことを「狂い咲き」という。「帰り花」「忘れ花」「狂い花」などともいう。ふつう小春日、すなわち初冬の頃の暖かく穏かな天気が続く頃によく見かけるので、俳句では冬の季語となっている。
春に花を咲かせる落葉性の花木の多くは、花芽を前年の夏に用意する。花芽という子孫繁栄の鍵になる大切なものを作るには、太陽の光と熱を一杯受けて葉が元気に栄養分を生産する夏が最適なのである。
といって、折角作った花芽がそのままどんどんと成長をして開花してしまうと、受粉に極めて不利な秋から冬に開花という拙いことになってしまう。そこで、花芽の成長を一時止めて、開花時期の調整をする必要がある。この働きをするのが、成長を抑制する、あるいは休眠を誘発する物質(アブシジン酸)である。
アブシジン酸は、葉の中で作られ、花芽に移動する。これによって、花芽は休眠状態になり、季節はずれの暖かさが訪れても、開花せずに冬を越すことができる。ところが、アブシジン酸は、冬の寒さに会うと壊れる性質があるので、春の来る頃には、花芽は開花に向けて成長を始めるというハッピーエンドの結末を迎えることになる。
しかし、自然の営みにも誤算はある。葉が大量に毛虫に食われてしまったり、台風で痛めつけられたりして、休眠を誘発する物質(アブシジン酸)が花芽に届かなくなるという事態が発生することがあるのだ。そうなると、花芽は眠らずにいるので、小春の暖かい陽気が続くと「春だ!」と勘違いして開花することになる。これが、「狂い咲き」という現象が起こる仕組みのようである。
では、真夏に開花する木蓮の場合は、どうなのだろうか。3月下旬に咲いたばかりである。いくら狂ったといえ、ちと急ぎすぎる開花である。桜や躑躅などとは異なった原理が働いているのだろうか。あるいは、ストレスに弱く、狂い咲きしやすい性格なのかも知れない。
借景の庭に納まる雲の峰 和樽